山内の最高傑作

こんにちは。

山内ギャラリーショップの倉員です。

 

今回はデザイナーさん本人が山内の最高傑作と位置付けた泥染スクラップの「3way ミリタリーコート」通称「ドッキングコート」についてお話ししようと思います。

 

「ドッキングコート」「泥染」「スクラップシリーズ」と様々な要素が織り混ざったアイテムですが、この一着を初めてみた時の感想は「凄まじい存在感」でした。

 

ドッキングコートという縫製の面でも仕様の面でも非常に密度の濃いアイテムですので、大迫力であることは言うまでもありません。

しかしそれだけでなくこのアイテムには「モノを超えた生命力」を感じ、それがこの存在感を感じる理由の大きな要因のように思われます。

 

実際に見ていただいた方には少なからず似たような感覚を覚えた方もいらっしゃるのではないかと思いますが、このアイテムはモノとしての境界を超えつつあるようなそんな迫力があります。

 

さらに実際に袖を通していただくと他の洋服にはないずっしりとした重みを感じます。

本来モノは快適な方向へ進化していくものだと思います。

服であれば快適な着心地を重視した軽さや柔らかさの追求へ向かうはずです。

しかしこのコートはその逆へ向かっているように思え、そこからは人間の道具という枠には収まりきらない重々しさや荘厳さのようなものまで感じます。

 

ではなぜ、このアイテムは「モノを超えた生命力」をも感じさせるのか、それにはいくつか理由があるように思います。

 

まずは泥染について。

 

泥染は奄美大島にて行われる日本古来からの染色方法です。

奄美大島のテーチ木や泥を使い、その工程をすべて職人さんの手作業でおこなっていく天然染です。

染め上がった生地はバキッとしたハリ感が加わり、乾いた表情に仕上がります。

 

元々の滑らかで整った生地が荒々しくその時々異なる仕上がりになることで、人によって作られた生地に自然の一部のような生命力を感じます。

 

次にスクラップシリーズについて。

 

毎シーズン様々生地を使って新作をご提案していますが、最終的なコレクションの調整や生地の廃盤といった事情により、皆様にお披露目してこなかった生地も存在します。

これまでブランドを支えてきたそれらの生地だからこそ持つ魅力を、新たな価値として提案できないか。

そのような試みからスタートしたのがスクラップシリーズです。

 

スクラップシリーズには今シーズンだけでなくこれまでの山内の歴史が詰まっています。

その背景が表地から滲み出ることで、1つのシーズンを超えた厚みのある雰囲気を生み出しているように思います。

 

最後にこのドッキングコートというアイテムについて。

 

ドッキングという複雑な仕様でありながら、余計な部分を削ぎ落とされた非常に考え抜かれたディテールで構成されています。

特にライナーとアウターを繋ぐドッキング箇所のボタン・ボタンホールですが、これが別々になった時にそれぞれの前を閉じるためのボタン・ボタンホールとして二重の機能を持ちます。

ただ積み重ねていくだけでなく、足したり引いたりの駆け引きがそこに見受けられます。

 

また、このドッキングコート、100パーツ以上のパーツで構成されています。

この凄まじい量のパーツを裁断し組み上げていく、それを山内の服にあう丁寧な縫製で。

今回は泥染のスクラップシリーズであるため、パーツの切り替わりの度に糸調子が変化していく非常に難しいアイテムです。

また、生地のレイアウトも隣同士が同じにならないよう計算され、さらに製作したすべてのコート同士でも見た目が同じにならないよう配置しているため、一着として同じものが存在しません。

 

こだわり尽くし、とことん突き詰めていく姿勢が、そのデザインや仕様に「山内」の執念として現れているように思います。

 

 

時代が移り変わっていくようにモノづくりの在り方もどんどん変化していっていることを常に感じます。

このアイテムがより異質な存在に見えるのは、今の時代のモノづくりとのギャップがあるからではないでしょうか。

 

モノを超えたこの迫力を、この存在感を、是非アトリエにて体感していただけたらと思います。

 

 

/ 倉員